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  1. 「アッペ」の話

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スタッフブログ 2023.12.20
「アッペ」の話

 いつもスタッフブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 

 アッペとは急性虫垂炎の俗称で、右下腹が痛くなる病気の一つです。「もうちょう」という言葉を聞いたことがあると思いますが、これは病名ではなく、腸の場所の名前です。その昔、虫垂炎の診断が難しかった頃、こじらせて盲腸炎になると命にかかわっていたため「もうちょう」という言葉だけが有名になったといいます。盲腸は行き止まりの腸という意味です。口から入った食物は食道、胃、十二指腸、小腸と流れて右下腹で大腸に入ります。大腸に入ると食物は頭側に流れていきます。足側の袋小路になっている部分が盲腸です。その袋小路の先に細い紐のような部分があり、これが虫垂です。虫垂の役割ははっきりしません。草食動物では盲腸と虫垂が長く発達していますので、腸内細菌との関わりがありそうです。この虫垂が突然、化膿して炎症を起こし、腫れて痛むのが虫垂炎です。急におこるので、急性虫垂炎といい、これが「もうちょう」の正式な病名です。虫垂は英語でappendix、急性虫垂炎はacute appendicitisなのでアッペと呼ぶわけです。ちなみに盲腸はcecumです。

 

 実はこのアッペ、診断が意外に難しいです。なぜなら、初期の患者さんは右下腹を痛がらないからです。多くは「胃が痛い」と言って来院します。このため、胃薬だけ処方されて診断が遅れることがあります。下痢する人もあれば便秘する人もいます。典型的な経過では、時間とともに右下腹に痛みが集まってきます。しかし、虫垂の長さと位置には個人差が大きく、臍の周りが痛いという人もいれば、アッペの先端が背中に回っている人は腰を痛がります。盲腸が移動して左下腹にアッペがある人はそこを痛がります。経験を積んだ外科医が典型的な症例を診察すれば、診断は比較的容易です。しかし、右下腹が痛くなる病気で鑑別すべきものには、憩室炎、腸間膜リンパ節炎、尿管結石、卵巣嚢腫茎捻転などなど、他にもたくさんあります。最近はCTスキャンで虫垂炎の診断を確定できますが、位置が移動しているものや炎症が軽くて腫れが少ないものは診断しにくいことがあります。

 

 かつて、アッペの治療は手術が主役でした。この手術は外科医の登竜門として基本的なものと思われがちですが、さにあらず、実は奥深いものです。CTを今ほど気軽に撮影できなかった頃は、もっぱら外科医が触診して手術が必要かどうかを判断していましたので、開けてみたら3割くらいは別の病気でした。傷が小さいことで手術の腕前を自慢できた古き良き時代には、2cmくらいの傷で済んだものは実は軽いアッペだった、とか、開けたら別の疾患だったので本来なら手術しなくてよかったけれど、ついでなので正常な虫垂を切除した、などという裏話もあります。逆に炎症がひどくなり膿の塊を作ってガチガチの岩のようになったアッペでは、小腸と盲腸を切ってつなぐ手術が必要になることもありました。そうなると、研修医が一人で行うには荷が重すぎます。外科医はアッペに始まりアッペに終わるといわれますが、これは診断にも手術にもあてはまることです。

 

 今ではアッペも腹腔鏡手術の適応です。臍に穴をあけ、5mmくらいの小さな穴を下腹に2つ追加すればアッペを摘出できます。ほとんど傷は残りません。抗生物質が強力になったので、緊急手術になることはずいぶん減りました。抗生物質で治療することを俗に「ちらす」といい、見た目にほとんど正常化することもよくありますが、3人に1人は繰り返します。そのため、抗生物質でいったん炎症をしずめてから、炎症のないときに予定手術を行う「待機的虫垂切除術」というのが、最近のアッペ治療の主流になりつつあります。この待機手術を腹腔鏡で行うと痛みが少なく、回復も早いため術後の入院期間を短縮できます。治療を2度に分けるのが面倒に感じるかもしれませんが、緊急手術よりも手技がはるかに容易で合併症も少ないため、結果的に手術の安全性が高まります。一方、抗生物質で改善しないときや、虫垂が破裂して腹膜炎がおなか全体に広がっているときなどには、早急に手術が必要です。緊急手術も腹腔鏡で行うことがほとんどですが、開腹手術に変更しなくてはならないこともあります。合併症で応用問題のような複雑な経過をたどる症例もありますので、一つの治療方針にこだわることなく、臨床経過を診ながら臨機応変に対処する必要があります。

 

 やはりアッペの治療は奥深い・・・。

 

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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