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スタッフブログ 2025.01.22
坐骨神経痛は病気か?
いつもスタッフブログをお読みいただきありがとうございます。
先日NHKの「総合診療医ドクターG NEXT」を見ていて気になる言葉がありました。青山学院大学陸上部の原監督が、急な腰痛の原因になる病気の候補を聞かれて「坐骨神経痛」と答えた事です。私が外来で診察していても、患者さんが過去の病歴の答えとして「坐骨神経痛」を挙げる方がいます。しかし「坐骨神経痛」は病名ではなく、痛みを感じる身体箇所を含めた「症状」であり、病名ではありません。詳しい内容は日本整形外科学会ホームページ(https://www.joa.or.jp/public/pdf/joa_029.pdf)に譲るとして、なぜこのような事になるのでしょうか。
可能性の第1として「坐骨神経痛」症状を訴えに持つ患者さんが非常に多く存在する事が挙げられます。2023年にオーストラリア・シドニー大学からの報告では “坐骨神経痛の生涯有病率は最大で43%に上るといわれ、坐骨神経痛の85~90%は腰椎の椎間板ヘルニアによる圧迫や炎症が原因とされている。急性坐骨神経痛患者の予後は一般に良好だが、20~30%の患者において、疼痛は1年以上持続する。” との事です(Chang Liu, et al. Surgical versus non-surgical treatment for sciatica: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2023 Apr 19)。つまり、おおよそ10人に1人が慢性的な「坐骨神経痛」症状を持って生活している事になります。全員が正確な診断・検査・治療を受けているわけではないと考えますので、「坐骨神経痛」としての状態から「椎間板ヘルニア」病名に辿り着いていない事が考えられます。
次の可能性として、診断が付かない「坐骨神経痛」の存在が挙げられます。臨床現場ではMRI検査において「椎間板ヘルニア」を認めない「坐骨神経痛」が存在します。当院でも上殿皮神経・中殿皮神経障害などの末梢神経障害や慢性疼痛症候群など診断が難しい疾患の治療を行っていますが、正確な診断に辿り着けない患者さんは多く存在します。また「変形性股関節症」等の関節病変が「坐骨神経痛」と同じ痛みを生じる事もあります。「坐骨神経痛」の原因究明が難しい事もあり、「坐骨神経痛」を症候群として捉えて病名の様に説明する傾向があるのかと考えます。
どちらにしても、「坐骨神経痛」を放置せず、正確に診断・検査・治療を行う事が必要ですし、重大な病変を見逃さない事が大切と考えます。
最後に一つ疑問があります。「坐骨神経」という医学専門用語がなぜこれだけ多くの日本人が知っているのか?一般化しているのか?という事です。「坐骨神経」の場所を正確に身体外見より特定する事は難しいと思います。誰かご存じの方はご一報ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。