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  1. 外傷外科医、若き日の一コマ

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スタッフブログ 2019.10.29
外傷外科医、若き日の一コマ

いつも結城病院スタッフ・ブログを読んでいただいて、ありがとうございます。

 18歳の女性が、5階の窓から飛び降りた。下にトタン屋根の物置があって、その屋根に胸でバウンドして地面に着地、意識不明、ショック状態で都内の救命救急センターに搬送された。頭と手足には大きな外傷はなかった。

 左多発肋骨骨折、血気胸、肺挫傷、脾破裂がCT検査で判明。出血性ショックの状態で、気管内挿管と同時に胸腔ドレーン(胸にたまった空気や液体を排出するチューブ)を挿入し、初療室から手術室へ直行した。全身状態がよければ脾破裂には動脈塞栓術という血管内治療の選択枝があるが、輸液のスピードを上げても血圧が不安定なので、動脈造影をしている余裕はなかった。

 正中切開で開腹。腹腔内から大量の血液があふれてきた。血液を吸引しながら腹腔内を検索する。肝臓には目立った損傷はない。脾臓が粉々に割れている。脾臓を持ち上げ、脾門部の血管を結紮切離して脾臓を摘出、手術開始からここまで約10分。腹腔内を再度確認したが他に臓器損傷はなく、急いで閉腹にかかる。すると、胸腔ドレーンからの出血が急速に増えて血圧が上がらない、と麻酔科医が叫んだ。すばやく胸の覆い布をとって肋骨の間を切開し、開胸器をかけて左胸を大きく開く。胸腔内から一気に血液が噴き出した。血の中に手を突っ込み、大動脈を探るが損傷はない。手探りで肺門(肺に流入する血管と気管がまとまった部分)をつかむと出血の勢いが収まり、血管遮断鉗子で肺門を遮断すると出血が止まった。肺下葉(上下に分かれている左肺の下半分)があちこち裂けて空気漏れと出血があり、裂け目が深い。縫合だけですべてを閉鎖するのは困難で(肺は薄い小さな袋の集まりでスポンジのように柔らかい)、下葉を切除する方が早いと思われた。肺切除術は研修医の頃に3例ほど助手をしただけで、自分が術者になった経験はない。助手は自分よりさらに若い。躊躇している暇はなかった。葉間(上下に分かれている肺の間)を割っていって、血管と気管を縛って切ればよいのだ。やるしかない。15分ほどで一気に肺下葉切除を終え、血管遮断鉗子をはずした。出血はない。血圧も安定している。大急ぎで閉胸して集中治療室に戻った。

 それなりに出血して輸血を必要としたが、術後経過はきわめて順調だった。患者の若さと体力のおかげともいえる。全身状態が安定したところで精神科に転科した。多発肋骨骨折で身動きできないほどの激痛のはずだが、終始他人事のように平然としていた患者には驚くばかりだった。

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